しろんのブログ

詩集と写真

初虹

雨が上がった

煌めく虹を見つけた
とても大きくて
とても優しくて

僕は虹の輝きを少しだけ分けてもらおうと
その足元を探しに行ったんだ

僕は何にも輝いてなくってさ
誰かから光を借りないと
誰も見てはくれなくて

借りた光は
どこかしっくり来なくて


いつもは見つからないのに
虹の足元を見つけた

そこには1つのピアノがあった

吸い寄せられるように
手招きをされてるように
ストンとピアノの椅子に座る

ぽろんと弾いてみた
とても美しくて優しい音色

それと同時に
悲しみの音
怒りの音
嘆きの音も
聞こえてきた

それはピアノの音色に合わせ
雨粒のように空へ昇っていった

そう、そのたくさんの雨粒の行列が虹だったんだ

遠くから見たらあんなに煌めく虹が
近くで見たらこんなにも人間らしい

遠くから見たら七色しか分からなかったけど
ピアノから生まれたての音色たちは
多種多様 千変万化の集合体

それは真新しい光景ではなく
どこか懐かしさを感じた

自分の心の中のようだった

必死に隠していたそれを
鍵盤を奏でるように空へ放てば

あんなに憧れていた虹になる
そう、気づいたんだ

借りなくてもよかったんだね
光はいつもここにあったんだ


虹は幻
目の錯覚
光のイタズラ

そこに辿り着いた僕は
虹になるんだね

僕が僕であるうちに
これが書けてよかった

みんなの事を愛してるよ

行ってくるね

張り詰める糸

細く細く
ピンとまっすぐな綺麗な糸の上を

私はゆっくりと丁寧に歩いていく

足の付き方
手の振り方
スピードも
手の振りまで気をつけて

完璧なまでに渡っていく



皆がその姿をみては歓喜して
素晴らしいと言ってくれる


果たしてそれは
糸から足を踏み外した時はどうなってしまうのか

時々怖くなる

落ちた私は嘲笑われてしまうのだろうか
糸の上で震える私を誰も気づかない

少しバランスを崩しただけで
みんなの声のトーンが1つ下がるのがわかった

完璧を求めた先には
途方もない圧力があったんだ

私が落ちた時に
きっとみんなは避けるのだろう

誰もいない所に叩きつけられてしまうのだろう

もし1人でも受け止めてくれる人がいたのなら
私は避けてと言うだろう
その人まで巻き込んで潰したくは無いのだから

そんな疑心暗鬼に苛まれながら

今日もみんなの励ましの声に勇気をもらい
心の鬼に立ち向かうのだ

異類無礙

慎重に選んだ言葉も
私の知らない所で不正解となっている

知らずにその言葉を好きになって
配り歩いたその先に

欠陥のレッテルを貼られた1冊の本があった

愛でるように
溶けるように
文字の一つ一つを指でなぞる

指と紙の擦れた香りが
心を落ち着かせてくれた


それを奇異な目で見られていた事に気付いてからは
本を開くのも怖くなった


私の好きは
私の常識は
私の趣向は

特異的なものだった


それでもいいと思って歩いてきたけど

人は独りでは生きていけないらしい



今日は君に甘えさせておくれ
ふたりぼっちという言葉があるのなら
それは君とがいい

春風はまだ少し冷たくて

桜が咲いてから散るまでに

たくさんの出会いに胸を躍らせて
開いた世界に目を細め
尊い別れを惜しみながら

この儚い時間の意味を桜の木に問いかける

手に取った花びらが愛らしい
その花びらを身に纏う桜の木は
何を想いながら その花びらを散らすのだろう


春は人を想う季節
出会いに恋をし
別れを愛おしみ
始まりを託され
終わりを慈しむ

一人一人が自分と向き合い
他人と向き合う季節

あなたは向き合って何を想ったのか
それは桜吹雪を見つめるその背中に問いかけよう

華やかな世界の憂鬱

小さな小さな蕾の内緒話

今年はちゃんと咲けるかな
気付いてもらえるかな

写真なんて撮って貰えたら嬉しいね

そんなワクワクする期待をクスクスと
ドキドキする不安をヒソヒソと

今日も内緒話

周りを見れば大きな桜の木
桜が咲けばみんな上を見上げる
桜が散れば花びらの絨毯に私たちは埋まってしまう

そんな事を思い出すたびに心が小さくなっていく


春霖雨が憂鬱な日に
傘を差す君に出会った

君は
ちょこんとしゃがんで小さな声で可愛いと呟く

憂いを帯びたその瞳はとても優しかった

君の心の蕾もちゃんと咲きますように
私も小さな声で呟いた

遅疑逡巡

優しい歌が聴こえた

春風のような
温かくて撫でるようなそんな歌が


涙を流して歌うあなたが
手のひらに表した「それ」を
受け取りたいと思ったんだ


あなたが私のそばにいる感覚が
何よりも落ち着いて
心強くて

あなたから受け取ったそれを
今度は私が紡いで風に流そう


それでやっと1歩が踏み出せる気がする

身を切る風も
貫く寒さも
静寂の夜も

これから世界が変わる
大きく息を吸って
踏み出したその1歩が

あなたの春一番

忘却の彼方の落し物

閉じ込められたみたいに身体が動かないんだ

綺麗なものを見たくて
美味しいものだって食べたくて
あの物語の続きを見たかったのに

身体は動いてくれなかった
初めは焦りとか罪悪感とかあったんだ

甘えちゃダメだ これは自分がしっかりすれば治るんだ

ホントにそう思っていたんだよ


でもそうじゃないみたい

心の中は
いつも何か足りなくて

これがあれば動けるようになるのにってわかっているんだけど
これが何かわからない


誰かに聞いてみたけど

なんとなく、違うと感じてしまう


答えも出せないまま
応える事も出来ないまま

とうとう大人になってしまった

みんなの期待を裏切った
自分を甘やかして生きてきた
逃げてばっかりだった

そんな身に覚えのない事実と
何とも他人事のような言い訳にウンザリしてしまう


そう

未来の話をしたいんじゃなくて
今の話でもなくて

置いてけぼりにされた
私の心の欠けた所

その話をしたいんだ

過去に忘れてきた
褒めてもらいたかった心の欠片
人が好きと迷わず言えた心の欠片

迎えに行きたいんだ
私の心の欠片を

忘れられそうになってる
心の欠片を

出来れば
あなたと一緒に

探しに行きたいんだ