しろんのブログ

詩集と写真

雪割草

昔、文通をしていた人がいた

文通と言ってもメールでのやり取りなんだけど

その相手の人はとても優しくて
あの人の書く言葉は
まるで今隣に居るかのように
私の欲しい言葉を綴ってくれた

何通も何通も言葉を交わした
小さな出来事から 人には言えない悩みまで
なんでも書いて伝えた

その度に帰ってくる言葉はとても暖かくて
綺麗な言葉が私を包んでくれた
穢れのない透き通った優しさが
私の心を洗い流してくれていた

私はその人に会いたくなって
会いに行きたいと伝えた

1週間

返事が帰ってくるまでの時間がとても長く感じた

「私も会いたい、場所は〇〇だからいつでも来ていいよ」

そこは病院だった

私はすぐに会いに行った

病室のベッドの上に彼女は横になっていた
見たことの無い機械に繋がれて
規則的にピッピッと鳴る音と
呼吸器の音が聞こえた

「びっくり…したでしょ… もっと…早く伝えれたら…良かったね」
そう言って 彼女の眼から涙がこぼれていた

私は思わず駆け寄って抱きしめていた
子供のような小さな身体
彼女はとても細いその手で私を抱きしめてくれた

彼女は詩を書くのが好きだった
いつかこの詩を誰かが歌にしてくれないか
そう思って掲示板に投稿して友達を探そうと思ったらしい

彼女の詩はとても力強くて
絶望も後悔も微塵も感じさせない
綺麗で気高い詩だった

面会時間ギリギリまで言葉を交わして
また来るねと言って病室を出た

部屋を出ると担当の看護師さんが声をかけてくれた

看護師さんは彼女の事を色々教えてくれた
病気の事
私に読んでもらいたくて毎日詩を書いていること
私の事が大好きな事
大人になるまでは生きられない事

外に出ると雪が降っていた
しんしんと降る雪はどこか儚げで
それでも優しく私の肩にとまってくれた


その日の夜 彼女の為になにかしてあげたい
そう思って2人で何をしようか
希望に満ちた未来をノートに書いた

また明日彼女の所に行ってノートを見せてあげよう


次の日
彼女には会えなかった

昨日の夜に容態が悪くなり
今は別の部屋に移ったそうだ

急な事で事態が飲み込めず
私は呆然として待合室でただただ座っていた

私のせい

そればかりが頭の中を支配してて
何も考えられなかった

看護師さんに声をかけられるまで
ずっとそこに座っていた

いつの間にかすっかり日が落ちていた
風がいつもより冷たく感じた


それから面会出来ない日が続いた
私は毎日手紙を書いて看護師さんに渡した


そんな日がしばらく続いていたある日のこと
看護師さんからもう手紙は預かれないと言われた

私の耳はそれ以上何も聞こえてこなかった

身体が震えて

思考が全然まとまらなかった

看護師さんは取り乱した私を個室に連れていってくれた
どのくらい時間が経ったのか
看護師さんは私が落ち着くまで一緒に居てくれた

そしてゆっくり背中を擦りながら
大きめのクッキーの入っていたであろう缶を渡してくれた

その中には、A4でプリントアウトされた
たくさんの彼女の詩が入っていた

「これを渡して欲しいって」

そう言って私に彼女の詩集を渡してくれた

いつから書いていたのかな
少し色あせた紙を撫でて

ようやく 私はそこで彼女の死と向き合うことになった
何かが切れる音がして
涙が止まらなくなって
悔しくて
悲しくて
聞くに絶えない悲鳴を叫び続けた







もう東京では桜が咲いていると聞こえてきた

ふと、彼女の詩を思い出した

最初に歌にするならこれがいいと言っていた

何があっても生きてやると綴られた
雪割草の詩を